家の中で引っ越しだあ!

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

中村・ニック・泰貴君の展示会
 3月19日木曜日。妻と一緒に次女杏奈の夫のブランドの初展示会に行ってきた。杏奈も一緒にいて手伝っている。フォーマルな上着やパンツを彼なりに崩して、普段使いもできるようなデザインのものが並んでいる。

 僕は子供の頃から、母親に連れられてデパートに行くと、自分の服を買ってもらうにもかかわらず、一緒に連れまわされるのが嫌いで、最初に戦艦大和やゼロ戦などのプラモデルを買ってもらって、椅子がある所や階段の所に部品を広げて、一人で作っているが、母親が僕に合っているものを選んで僕の所に戻って来ると、今度は何着も着せ替えさせられた。それで結局1着か2着選ぶわけだが、それが面倒くさくて嫌だった。
 そんな僕なのに、展示会では、妻や杏奈がかわるがわる、
「これ着てみて!」
「このズボン履いてみて!」
と持ってきて、その度に、いったい何度試着室に入ったことか。






 妻は、ありきたりなタキシードではなく、演奏会で着れるようなフォーマル過ぎないウェアを、果てしない試着の末に僕のために選び、彼女自身はドサクサに紛れて、
「彼へのお祝いだから」
と言いながらデニムのシャツをチャッカシ頼んでいた。でも、すぐに手に入るわけではなく、これから注文して製作するので、手元に渡るのは9月だという。

 中村・ニック・泰貴君が今回立ち上げたブランド名は、Wolfgang tanhäuser 略してWT.(ヴェーテー)という。我が家で僕の話をいろいろ聞いていて、彼は自分が作りたいブランド名が浮かんできたというが、その名前に決めたことを聞いた時、僕は正直言って、のけぞって笑いが止まらなかった!よりによってWolfgang Amadeus MozartのWolfgangと、あの「タンホイザー」だもんな。
 でもね、展示会に行ってみたら、恰好よく素敵で、かつ、ものによっては可愛いとさえ言える作品が並んでいた。隅々まで行き届いたデザインに彼の洋服への深い愛情を感じた。彼は先日、フィレンツェでの展示会を成功させたばかりだ。


 ちなみに、展示会は、明日からは場所を変えて以下の通りの所で開かれている。次女の杏奈もいて手伝っているので、「三澤の知り合い」だと言ってくれれば大歓迎だそうです。入ってしまったら絶対に買わないと二度と出られないなどということはないので、気軽に行って、ついでに口コミもお願いします!

3/24(火)~3/26(木) 19:30~21:00
東京都渋谷区桜丘町17-9第二昭和ビル401

中村・ニック・泰貴の紹介記事
https://www.wwdjapan.com/articles/2351721
https://www.instagram.com/p/DVxNqwbD2W6/
https://note.com/kayu004/n/n423b6fe5093b

練習が集中する祭日と週末
 3月20日金曜日「春分の日」の午後は、東大コールアカデミーのOB合唱団「アカデミカ・コール」の練習。21日土曜日は、午前中が「東京バロック・スコラーズ」で、夜が「志木第九の会」の練習。翌日の22日日曜日には、朝から新幹線に乗って浜松に行き、「浜松バッハ研究会」の練習と、3日間、4つの合唱団の練習に明け暮れた。
 4月には二つの団体が演奏会を控えている。4月18日土曜日に浜松アクトシティでバッハ作曲「ヨハネ受難曲」演奏会があり、その翌週の26日日曜日は、東京バロック・スコラーズの演奏会だ。

 僕は最近よく思う。合唱の練習の場合、特に僕は理屈でみんなを納得させるのではなく、自分で歌ってほぼ口移しという感じで練習を進めていくので、とても疲れるはずなのに、全然疲れない。誕生日が来て、もう71歳なのにね。
 特に、昨日の浜松バッハ研究会の「ヨハネ受難曲」の練習では、チェンバロの音に設定したキーボードを自分で弾きながら、福音史家のレシタティーヴォを全部歌い、そのまま合唱の指揮に移っていく。
 昨日は、合唱団に加えてソプラノの飯田みち代さんとバスの初鹿野剛さんが加わっていたので、そこは歌わなくて良かったが、一応アリアも含めて全曲を止めながら通したので、他のアリアは歌いながら指揮した。

 一方、アカデミカコールは、今週末(3月28日土曜日)に控えている、北海道大学・東北大学・東京大学の三大学OBジョイントコンサートの演目の内、アカデミカコールが単独で担当する演目の練習だった。
 先日現役の演奏会で指揮したばかりだが、谷川俊太郎作詩、木下牧子作曲「地平線のかなたへ」という比較的若者向けの組曲は、結構新鮮で楽しい。前にも、現役演奏会のプログラムの文章を掲載したと思うけれど、「ネロ」という終曲にとても思い入れがある。というか、思い入れを自動的にしてしまうのだ。かつて我が家で飼っていたタンタンというミニチュアダックスフントが死んでしまった悲しみが、練習する度に溢れてくるのだが、今では、その悲しみと同じくらい、一匹の犬にそこまで愛情を注くことができた事への感謝が胸を支配する。
 タンタンが亡くなったのは、2012年の5月なので、もう14年も前の話だ。それから、もう犬を飼うのはやめよう、と思って今日に至っているが、その次の年に長女に子供が生まれた。それからワケあって長女が我が家に舞い戻り、孫の杏樹と一緒に住んでみたら、まるでタンタンの生まれ変わりのように分からんチンのやんちゃ娘なので、半分タンタンだと思って接している“溺愛のジージ”です。

 三大学OBジョイントコンサートは、3月28日土曜日。府中の森芸術劇場どりーむホールで13時30分開演。僕が合同演奏の「東京キッド」でジャズっぽいピアノを弾くこともあるので、興味のある方は足を運んでください。

天才の業
 志木第九の会では、メイン・プログラムのモーツァルト「レクィエム」の前に、アンコール・ピースであるAve verum corpusを練習した。稽古を付けながら、この簡素で短い音楽に、僕はあらためて衝撃を受けていた。何気なく書かれていて、何気なく演奏できるが、モーツァルトの天才をもってしか作れない、まさに天才の技がそこにある。



 冒頭は普通に始まり、古典派の常で10小節目に属和音に落ち着く。すると11小節目も同じ和音で始まるが、実はこの小節はニ長調の属和音ではなく、属調すなわちイ長調の主和音である。それでイ長調のまま21小節まで行く。

 次が曲者である・・・いや、曲者というと悪口になってしまうが、ここからの和声展開が素晴らしいのである。Cujusのイ長調和音からいきなりlatusでコードネームで言うとC7に行く。これはヘ長調の属7である。それでperforatumでヘ長調に落ち着くと、次のundaのG7第3転回 はどこに行くか分からない。fluxitでは不安定なDiminish Cord減7和音からBbなどを経て、ニ短調を匂わせながら最終的に属調に行くので、その先も進行も不明である。


この場所の歌詞は、
「貫かれたその脇腹から、血と水を流し給いし方よ」
で、控え目ながら、歌詞の悲劇性にぴったりと寄り添っているのだ。
 それだけに、esto nobisで明るく平和なニ長調が復帰した時の、なんともいえない安堵の表情に救われた気がするのだ。勿論歌詞は、
「われらの臨終の試練をあらかじめ知らせ給え」
なので、“しあわせ”というわけではないのだが、一度安堵感を与えておいてから、37小節目から再び陰影に富んだやや不安定な和声進行を持ってin mortis examine「死の試練を」の歌唱を終了させ、残りの4小節では、そのイエスの苦難を包み込むような安らぎに満ちた音楽で後奏を締めくくる。聴衆の最後の印象は起承転結の後の“安らぎ”であって、後味は決して悪くないのである。

 う~~ん・・・唸ってしまう!誰でも作れそうな体裁を見せていて、モーツァルトでないと絶対作れない!オーバーに言うと、この曲が地上に残っているだけで、僕はモーツァルトと同じ地上に生まれて良かったと本気で思う。
 勿論、志木第九の会のメインプログラムでもあるレクィエムは言わずもがななんだけど、レクィエムは彼の交響曲やオペラなどと同じように、最初から「天才!」って顔をしているじゃない。でも、Ave verum corpusにはこちらの油断があった。

 志木第九の会の演奏会はまだ9月なので、まだ時間もあるのだけれど、じっくり取り組んでいこうと思っています。

家の中で引っ越しだ!
 孫娘の杏樹がこの4月から中学生になるので、今僕が書斎として使っている、我が家の中で一番小さい部屋を杏樹専用の部屋にし、彼女はひとりでそこで勉強し、寝ることになる。その隣の部屋は、これまで彼女の机がありながら母親の志保が一緒に寝ていたが、僕は反対にデスクをそこに移す。
 そこでもう一週間くらい前から、少しずつ整理をし、本棚の中のもう絶対に読まないだろうなという本から処分に入ったが、いやいや!大変ですなあ。あ、こんなとこにこの本あったのか!なんて思って、気が付いてみたら、片付けを忘れて本を読みふけっていたり・・・おっとっと!う~~ん・・・でもなあ・・・ブックオフに出すのもなあ・・・なんて思ってると妻が横から、
「何やってんのよ!早く捨てるにしても戻すにしても決めないと、永久に終わらないわよ!」
と怒鳴る。
 表面が汚れてないものは、分倍河原にある大きなブックオフに持って行ったが、あんまりお金にはならないなあ・・・とはいえ、引き取ってくれない事はなくて、一番安いものでも5円で引き取ってくれている。でもさあ・・・安くても千円くらい払って買った本が5円だぜ!どう思う?

 ということで、3月25日水曜日が決行日だ。すでに家の中がグチャグチャになりかけているが、この2日くらいで、一度完全にカオスになっていくだろう。また部屋を変えても、全てが整理されるまで、いつまでかかるか分からない。

という、落ち着かない今日この頃であります。

2026. 3.23



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