新国立劇場をしばらく離れます

三澤洋史 

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新国立劇場をしばらく離れます
 3月1日日曜日。新国立劇場「リゴレット」最終日。ダニエレ・カッレガーリのキリッと締まった指揮の元、緊張感に満ちた音楽が響き渡る。それに乗って、リゴレット役のウラディーミル・ストヤノフの豊かな声ときめ細かな表現力が聴衆を圧倒する。
 一方、ジルダ役の中村恵理さんは、元々2003年の「フィガロの結婚」のバルバリーナで新国立劇場デビューを果たしたが、その時に指揮していたウルフ・シルマーが、彼女のことをとても気に入って、当時の芸術監督であったトーマス・ノヴォラツスキーに、次に彼が再び来日して指揮する2004年の「エレクトラ」の第五の下女役に強く押していたのが印象的だった。
 結局その役の起用は都合で叶わなかったが、それをきっかけに彼女は国内のみならず、広く海外に出て行って国際的に大活躍する。コントロールされた確かな歌唱と、役にのめり込んだ説得力のある表現は、彼女のキャリアを裏付けている。
 また、その相手役であるマントヴァ公爵を演じるローレンス・ブラウンリーの揺るぎないテクニックと圧倒的な歌唱は、一度でも聴いたら決して忘れないだろう。その他、全ての歌手達が、ソツなく配置されていて、やはり世界に出しても恥ずかしくない一流の劇場だなあ、という想いを強くした。

 さて、公演の休憩時間、音楽スタッフの楽屋に行くと、副指揮者達が僕に“ある包み”をくれた。ワイングラスだという。また、公演が終わり、カーテンコールが終わって楽屋エリアに戻ってきたら、合唱団員達が僕の周りにみんなで集まって、ある包みをくれた。何かと思ったら山崎ウィスキーの中でも、最も高級なシングルモルト700mlのボトルであった。
 僕は一応、新国立劇場主席合唱指揮者から桂冠合唱指揮者になり、メインの籍を若い冨平恭平君に譲ってひと区切りという感じだ。ちなみに僕の次の新国立劇場における合唱指揮の担当は、まだ具体的には決まっていないが、その一方で、劇場からは“完全引退”とも聞いていないので、また来ると思います。

 その晩は、家族で近くの焼き肉屋に行き、ささやかなお祝いをしました。
「長い間、お疲れ様!」
ということで、ビールもワインもカルビも美味しく、家族水入らずでリラックスして過ごしました。

 ということなので、今後結構時間ができました。まあ、これまでにも、新国立劇場合唱団の仕事の合間を縫って、二期会や日生劇場や、様々なアマチュア団体の指導や指揮の活動を行ってきたのは継続していますが、この記事を読んで、どこかの団体で、
「あ、頼んでみようかな?」
と思う方がいたら、合唱団でもオーケストラでもプロ、アマを問わず、遠慮しないで連絡してみてください。ヘタでも全然構いません。
「おお、こんなに上手になった!」
という状態にして差し上げます。

 僕自身、ご隠居さんになるには、まだまだ元気過ぎるからね!夏は水泳、冬はスキーして体を鍛えているし、毎日散歩をするよう心掛けているんだ。ということで、繰り返しますが、何かあったら、差し当たってCafe MDRホームページのアドレスに連絡して下さい。
 cafe.mdr.office@gmail.com

「マエストロ・キャンプ」最終案内
 そんなわけで、元気な僕は、一週間前に迫った3月7日土曜日及び8日日曜日の「マエストロ・私をスキーに連れてって」キャンプにも意欲を燃やしている。その最終案内をいたします。

 2月キャンプは、参加者は少なかったけれど、アットホームで、とても有意義なキャンプであった。プレキャンプから参加した常連のTさんの上達が著しかったので、つくづく「継続は力なり」という言葉の正しさ感じた。
 もうひとりのTさんは内視鏡の専門医で、マイペースな滑りをするが、それを角皆君が自由に泳がせておきながら見事に進歩に結びつけていった。2人とも、コブをそつなく滑れるようになった。
 「こうした超一流のコーチにかかると、進歩の度合いって全然違うんだなあ!」
と、一緒に滑りながら僕も驚きつつあらためて思うんだ。

 スキーをする人の中には、大自然の中で自由に滑っていればそれで満足なのだ、と思っている方も多いし、その気持ちは僕もとっても分かる。それでもね、一度割り切って、瞞されたと思ってキャンプに参加して欲しい。
 すると、次から自分の滑りが劇的に変わるので、その後は、これまで自分にとって縁が遠いと思っていたゲレンデに「どんどん行ってみようかな?」と思うようになるし、少なくとも、これまで自分が思っていた“スキーに対する世界観”が一変していることに誰しも気付くと思う。

 初心者は、ターンが恐いので、なるべく斜滑降でゲレンデを滑り、“恐いターン”を早くやり過ごして、反対側の斜滑降に入って安心する。でもそれでは永久にスキーの本当の楽しさに到達出来ない。
 スキーの本当の醍醐味は、まさにターンそのものの中にある。最もスピードが出ている瞬間に自分の身にかかる重力と遠心力の拮抗を体感し、これを操る愉悦感がたまらないのである。勿論急斜面では、恐怖感は全く消えるわけではない。しかしながらテクニックがそれを守ってくれる。確かなテクニックさえあれば、自分の恐怖感を客観的に見つめることができ、それを“スリル”という楽しみに変えることが可能になるのだ。

 また少しでもジャンプをしてみたら、自分の体が、遠く地球の中心の“地軸”とつながっていることを誰しも体感出来るであろう。先ほど述べた「重力や遠心力」という“自然が自分を取り巻くパワー”に意識を向け、自分も大自然の中に囲まれていることに目覚めるなら、原初の愉悦感というものが自分を包む。これはスキーでなければ味わえない究極的な歓喜である。

 さらに、ターンからターンへ途切れることなく滑れていく状態になると、初めてこれが、音楽におけるフレーズ感覚と共通することに、音楽家であれば誰しも気付くであろうし、それに一度でも気付いた音楽家は、目からウロコが出て、スキーにも音楽にもあらためて“大きな覚醒”を覚えるのだと僕は確信する。自分がまさにそうであったから。

 まあ、そこまで大袈裟に考えなくとも、逆に今からでも気楽な気持ちで参加してみてくださいな。このキャンプは、単なる上達以外の何物かを必ず皆さんにもたらすものと確信しています。
 募集要項をよく読んでから申し込むのが正規の道ですが、とりあえず下記のメルアドに申し込んだら、こちらから案内を出します。それで、3月7日の朝9時半までに、エイブル白馬五竜スキー場とおみゲレンデのスキー・センターであるエスカルプラザに来て、用具を整えて、チケット売り場隣のFスタイルの窓口で受付を済ませて、9時50分からの準備運動に来てくれればOKです!

新しいワールドがあなたを待っていますよ!
maestro.takemeskiing@gmail.com

三大学OBジョイントコンサートの練習
 2月28日土曜日は、東京バロック・スコラーズの集中練習が午前午後とあり、バッハ作曲カンタータ182番、4番、12番をはじめとして、モテット第1番singet dem herrn ein neues lied 「主に向かって新しい歌を歌え」をたっぷり練習して、結構クタクタの状態で午後5時くらいに亀戸に着いた。
 でも、駅前でコーヒーをのんびり飲みながら、ちょっとソファでうたた寝した後、丸亀製麺に入って、ぶっかけうどんにイカ天と海老天をかけて食べたら、すぐ18時からの練習の為の体力が戻ってきた。

 亀戸文化センター2階の大研修室に入ると、シニアの男性で溢れていた。さて、今晩は、東京大学、東北大学、北海道大学の、それぞれのOB男声合唱のジョイントコンサートの合同練習である。つまり仙台や札幌からこの練習のためにみんな駆けつけてきたということだね。
 僕は最初、自分の担当する東京大学コールアカデミーのOB合唱団であるアカデミカコールの演目を担当するだけかと思っていたら、事前の練習の際に団内指揮者のSさんが僕にこう訊いてきた。
「他の団体は、多分みんな団内指揮者なので、自分の学校のレパートリーの時だけ、合唱団から抜け出て指揮したりするのですが、三澤先生はどうしますか?」
その意味が最初よく分からなかったのだが、この演奏会では、エール交歓も含めて、それぞれの団体が出して来た演目を、結局全て全団体で歌うのだ。それで僕はちょっと考えた末に、
「分かった!じゃあ僕も本番中は合唱団の中にいて、他の学校の演目もみんな歌うよ!」
と言った。

 その練習が今晩というわけだ。演目は以下の通り。

都ぞ弥生  明治45年北大恵迪寮歌
青葉もゆるこのみちのく  東北大学学生歌
東京大学の歌「大空と」  作詞:北原白秋
 作曲:山田耕筰
麦の歌  作詞・作曲:中島みゆき
 編曲:田中達也
荒城の月  作詞:土井晩翠
 作曲:滝廉太郎
 編曲:仁科博之
東京キッド  作詞:藤浦洸
 作曲:万城目正
 編曲:青木肇
作品第肆(「富士山」より)  作詞:草野心平
 作曲:多田武彦
海よ(「水のいのち」より)  作詞:高野喜久雄
 作曲:高田三郎
酒頌  原詩:W.B.イェーツ
 訳詞:林望
 作曲:上田真樹

 声種は、今ではバリトンだと思うのだが、高崎高校合唱部にいた時にはバスだったので、僕はバス声部を歌った。男声だけで4部合唱を組むため、男声合唱のバスは混声合唱のバスより低いけれど、一番下から和声を支える醍醐味はバスならではのものがある。下の音域もEまでだったらバリバリ出るしね。
 東大以外のほぼ全部の曲が初見だが、周りの団員達の歌に声を合わせていると、ああ、あの高校生の時の感動が甦ってきた。やっぱり男声合唱はいいね!

 僕が担当するのは「東京キッド」と高田三郎「水のいのち」から「海よ」。でも実は「東京キッド」は指揮をするのではなくピアノを弾く。美空ひばりで大ヒットした「東京キッド」には、ややジャズっぽいアレンジが施されているので、僕はそれにさらに悪ノリして、アドリブ入れまくりで弾くのだ。事前のアカデミカコールだけの練習でも、みんなで盛り上がったが、合同練習で僕がオカズをバンバン勝手に入れながら伴奏したら、一同大喜びでウケたので、僕もホッとした。
 その後、「水のいのち」では、一変して、こだわってこだわって長い時間をかけて練習をつけた。大好きな曲だからね。それに三大学集まって大人数での「海よ」に、自分でも興奮しているのが感じられた。名曲っていうのは、いつ何回やってもいいもんだね。

台湾有事どころか・・・
 テレビなどの大手マスコミが「オールドメディア」と言われるようになってから、すでに久しいが、そのオールドメディアがほとんど伝えない事のひとつに中国の最新の動きがある。

 例外として、高市早苗総理大臣が台湾有事の事に触れた件だけは繰り返し報じられ、中国が日本の態度を非難していると報道されているが、これには理由がある。それは、中国の習近平自身が、ある意味追い詰められていて、高市批判をするしか手の内がないとも言われているのである。

 とにかく、真実の報道に関しては、オールドメディアは全く信用できない。勿論、SNSだって、ある意味玉石混淆だから、安易に全てを信じるのは危険だが、こちら側にそれなりの見識があれば、本当か嘘かも見抜けないことはない。それによると、現在、中国の内政そのものが、かなり危機的状況にあると伝わってきている。

 遡って、1月24日に中国国防部から発表された事によると、習近平が、自分の下にいる張又侠(ちょうゆうきょう)という共産党軍事委員会副主席(軍のトップ)を逮捕及び監禁したと言われている。その前に、すでに昨年には軍事委員会から9人くらいが軍籍剥奪処分を受けていたそうである。



 で、そうやって、自分が粛清しまくった挙げ句の果てに、気が付いたら、習近平の周りに彼が信用できる人材が誰もいなくなってしまったではないか。そしてさらに、今現在、その習近平自体の動向ですら不明だと言われている。彼自身が拘束されたという情報もある。そうでなくても、現在の中国経済はガタガタであり、それだけでも充分に国内は危機に陥っているのだ。

 このような状況の中で、2027年だとも言われている「台湾有事」など、本当はどうみても不可能だと多くの有識者達は語っているね。しかしながら、今はむしろそれを煽ることでしか、現在の国内の“本当の危機”から、民衆の目を背けさせる方法がないというのが真実らしい。

 いずれにしても、今後、中国という国がどうなっていくのか、目が離せない今日この頃である。

2026. 3.2



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